【特集】米不足なのに毎日3トン廃棄される現実──私が見た食品ロスの現場と、この矛盾を解決する道筋

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ルポライター・みく

正直に言う。最初にこの話を聞いたとき、私は耳を疑った。「米が足りない」とニュースで騒がれているのに、神奈川県相模原市のリサイクル会社には、コンビニや飲食店から毎日3トン以上もの未使用ご飯が運び込まれているという。賞味期限内で、まだ食べられる状態のものが、だ。

これは一体どういうことなのか。私は現場を訪れ、この矛盾の正体を探ることにした。

この記事を読んでわかること

  • なぜ米不足と大量廃棄が同時に起きているのか
  • 廃棄されたご飯がどのように再利用されているのか
  • 私たち消費者や企業ができる具体的なアクション

現場で見た「食べられるのに捨てられる」現実

相模原市にある日本フードエコロジーセンターを訪れたのは、肌寒い2月の午後だった。トラックが次々と到着し、コンビニの袋に入ったおにぎりや弁当、レストランから持ち込まれた大量のご飯が運び込まれている。

「これ、全部まだ食べられるんですよ」

案内してくれた職員の方がそう言いながら、袋から取り出したおにぎりを見せてくれた。確かに、見た目も匂いも全く問題ない。私が普段コンビニで買うものと何も変わらない。

では、なぜこれらが「廃棄」されるのか。答えは想像以上に複雑だった。

「足りない」と「捨てている」が同時に起きる理由

この矛盾を理解するために、まず2024年の米事情を整理する必要がある。農林水産省の統計によると、2024年の作況指数は98と平年を下回った。特に東北地方では夏の記録的猛暑により、「白未熟粒」と呼ばれる品質の劣化が深刻化した。

しかし問題はそれだけではない。私が複数の米穀店経営者に取材したところ、以下のような構造的な問題が浮かび上がってきた。

まず、コロナ禍で落ち込んでいたインバウンド需要が急回復したことで、飲食業界の米需要が急激に増加している。観光庁の統計では、2024年の訪日外国人数は3,000万人を超え、コロナ前の水準を上回った。

次に、店舗側の「欠品恐怖症」がある。品切れによる販売機会の損失を恐れるあまり、必要以上に多く発注してしまう。結果として、売れ残りが廃棄に回る。

「お客さんに『ご飯がない』と言われるのが一番怖いんです」

都内のコンビニオーナーはそう打ち明けた。気持ちは分かるが、これが大量廃棄につながっているのも事実だ。

廃棄ご飯が「命を育てる資源」に変わるまで

では、廃棄されたご飯はどうなるのか。日本フードエコロジーセンターの工場内を見学させてもらった。

まず驚いたのは、手作業での異物除去の丁寧さだ。プラスチック容器、割り箸、スプーンなどを一つひとつ手で取り除いていく。この作業を経て、ご飯は乳酸菌による発酵処理を受ける。

「腐敗しにくい状態にして、液状飼料として豚に与えるんです」

工場長の説明を聞きながら、私は複雑な気持ちになった。確かに「リサイクル」されているとはいえ、人間が食べるために作られたものが、最初から家畜の飼料として計画されていたわけではない。

それでも、この取り組みには確実な成果がある。同センターのデータによると、食品リサイクル率は95%以上を維持している。また、提携農家で育てられた「エコフィード豚」は、通常の飼料で育てられた豚よりも肉質が良いとの評価を受けている。

私たちにできることは何か

取材を通じて見えてきたのは、この問題に「完璧な解決策」はないということだ。しかし、それぞれの立場でできることは確実にある。

家庭レベルでは、余ったご飯を捨てずに冷凍保存する、購入する量を見直すといった基本的な行動が重要だ。私自身、この取材をきっかけに冷凍庫の使い方を見直した。

企業レベルでは、AI技術を活用した需要予測システムの導入が進んでいる。大手コンビニチェーンの中には、過去の販売データと天候情報を組み合わせて発注量を最適化する試みを始めているところもある。

行政レベルでは、食品ロス削減推進法に基づく取り組みが各自治体で始まっている。ただし、私が調べた限りでは、まだ「啓発活動」の域を出ていない自治体が多い。

課題は山積みだが、諦めるには早すぎる

正直に言えば、この問題は思っていた以上に根深い。物流の制約、法制度の壁、消費者の意識など、解決すべき課題は山積みだ。

それでも、現場で働く人たちの真剣さを目の当たりにして、私は希望を感じた。日本フードエコロジーセンターの職員の方々は、単なる「廃棄物処理業者」ではない。彼らは「食の循環」を作り出すプロフェッショナルなのだ。

私たちにできることは、まず「知る」ことから始まる。コンビニでおにぎりを買うとき、レストランでご飯を注文するとき、その背景にある構造を少しでも意識すること。そして、自分なりのアクションを起こすこと。

一粒の米から考える未来

一杯のご飯の裏には、農家の汗、物流業者の努力、店舗スタッフの工夫がある。それが「食べられるのに捨てられる」現実は、やはり見過ごすことはできない。

この取材を通じて私が学んだのは、問題の複雑さと同時に、解決への手がかりも確実に存在するということだ。完璧な解決策を待つのではなく、今できることから始める。それが、未来の「食」を守る第一歩になるはずだ。

この記事を読んで分かったことと考えるべきこと

  • 米不足と大量廃棄の同時発生は、需給予測の難しさと流通システムの構造的問題が原因
  • 廃棄食品のリサイクル技術は既に確立されているが、根本的な解決にはならない
  • 消費者、企業、行政それぞれの立場で、今すぐできる対策がある
  • 問題の完全解決は困難だが、一人ひとりの意識と行動の積み重ねが変化を生む

コメ不足なのに毎日3トン廃棄 リサイクル会社「自分ごととして」

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