私、ルポライター・みくがこの発言を聞いたとき、正直「またか」と思った。
「主食のコメを外国に頼ってはいけない」──6月7日、岩手県盛岡市で自民党・森山裕幹事長が放ったこの一言。でも今回は違う。なぜなら、政府内では既に緊急輸入の検討が水面下で進んでいるからだ。
実家の母が「みく、お米が高すぎる」と電話してきたのは先月のこと。いつものコシヒカリが4,000円を超えていた。これはもう庶民の感覚を超えている。なるほど、自民党の森山裕幹事長は7日、盛岡市での党会合で、コメ価格高騰対策を巡り、主食用米の輸入拡大に否定的な考えを示しました。「主食であるコメを外国に頼ってはいけない」と述べましたという発言が実際にあったわけだ。
でも私が引っかかるのは、石破茂首相が11日のフジテレビ番組で「コメの生産量を増やせないとすれば、輸入を増やすというのも一つの選択肢としてあり得る」と述べていたという点。つまり政府内でも意見が割れているということだ。
- 政府内で本当に進んでいる「緊急輸入」の検討政府が実際に検討しているのは、SBS米(売買同時契約米)という仕組みの拡大だ。SBS米は、日本が実際に輸入しているミニマムアクセス米のうち10万トンを上限として政府が輸入を認めているものである。現在のWTO義務は年間77万トンのMA米だが、このうち10万トンまではSBS方式で主食用にも使える。
- なぜ今、コメが家計を圧迫しているのかデータを見ると深刻な状況がわかる。2024年産米の価格は、10月までの年産平均価格で23,191円と高騰しており、これは出荷業者と卸売業者等の間の取引価格としては、1993年産の23,607円に次ぐ高値だ。
- 輸入拡大の「経済合理性」vs「感情論」ここで冷静に考える必要がある。輸入拡大には確実にメリットがある。
- 食料自給率38%が意味する本当の危険
- なら、どうすればいいのか
- 私たちが選ぶ未来
政府内で本当に進んでいる「緊急輸入」の検討政府が実際に検討しているのは、SBS米(売買同時契約米)という仕組みの拡大だ。SBS米は、日本が実際に輸入しているミニマムアクセス米のうち10万トンを上限として政府が輸入を認めているものである。現在のWTO義務は年間77万トンのMA米だが、このうち10万トンまではSBS方式で主食用にも使える。
問題は、このSBS枠の大幅拡大が財務省を中心に検討されていることだ。財務省は、急騰しているコメの値段を下げつつ財政負担を軽減する一石二鳥の政策だと考えたという。
実際、農林水産省のSBS入札結果を見ると、2024年度は異例の高い落札率になっている。これまで不落札が続いていたSBS米に対する需要が急激に高まっているのだ。
SBS枠とは?
農産物の輸入で使われる「SBS方式」とは、「売買同時契約」のことです。輸入する商社(売り手)と、実際に製品を使用する国内企業(買い手)がペアになり、国(政府)と一度に売買契約を結ぶ仕組みです。
国が輸入と国内販売を別々に行う従来の方法とは異なり、買い手の「こんな商品が欲しい」という意向が直接反映されやすいのが大きな特徴です。
この方式は、外国産米の輸入で市場のニーズに応えたり、飼料用の麦でコストを抑えつつ個別の要望に細かく対応したりするために導入されています。効率的でニーズに合った輸入を実現するための賢い制度と言えます。

SBS米の輸入拡大って…コメの値段、そんなにやばくなってるの?
なぜ今、コメが家計を圧迫しているのかデータを見ると深刻な状況がわかる。2024年産米の価格は、10月までの年産平均価格で23,191円と高騰しており、これは出荷業者と卸売業者等の間の取引価格としては、1993年産の23,607円に次ぐ高値だ。
実家で母が悲鳴を上げるのもわかる。スーパーの米売り場では、2024年の新米の店頭価格は5kgあたり3,500~4,000円が中心で、前年度から1,000~1,500円程度上昇している。これは家計には相当痛い。
しかも減反政策によってコメの生産量が減っており、新米が供給されても『コメ不足』であることに変わりはないという状況らしい。2024年の収穫期に、全国のコメ生産地で、「見慣れない業者が、圃場までトラックを乗り付けて、現金でコメを買い取りに来た」という話を数多く聞いたというから、投機的な動きもあるのかもしれない。
でも政府は楽観的だ。2024-2025年の主食用米の需要量は674万トン、対して生産量は683万トンであり、民間在庫量153万トンと合わせた供給量は836万トンと試算されています。つまり数字上は足りているはずなのに、なぜこんなに高いのか。
※出典元:
【コメ価格】いくらなら納得?1.3万人に聞いた本音「子どもに好きなだけ食べてって言いたい」 専門家は「5kg2000円には戻らないだろう」見解示す
輸入拡大の「経済合理性」vs「感情論」ここで冷静に考える必要がある。輸入拡大には確実にメリットがある。
実際、日本国内でコメが大幅に値上がりし、高関税にもかかわらず外国産への需要が高まる中、日本は1999年以降で初めて韓国からコメを輸入したというニュースもある。韓国産のコメ2トンがオンラインや国内のスーパーマーケットで販売されたという。
※出典元:日本が韓国からコメ輸入、1999年以降初めて-価格高騰で異例の機会
韓国ではコメの自給率は84.6%と高いものの、小麦・トウモロコシの自給率はわずか0.7、0.8%であり、コメ以外の穀物はほとんどを輸入に依存しているという状況だ。つまり韓国も日本と同様に食料安全保障の課題を抱えている。
輸入拡大の経済的メリットは明確だ。価格が安定し、消費者の負担が軽減される。外食産業や食品メーカーのコストも下がる。短期的には確実にプラスになる。
でも長期的なリスクは計り知れない。
食料自給率38%が意味する本当の危険

私が一番衝撃を受けたのは、現在の食生活に必要な食料の全てを国内生産で賄うのは困難である一方、輸入についても海外の生産地における不作や世界規模の物流障害といった不安定な要素が存在しているという農林水産省の認識だ。
つまり政府も「もう自給は無理」と諦めている部分があるということ。でもそれでいいのか?
韓国の事例は興味深い。韓国は食料自給率の向上を目指し、2027年までに食料自給率を55.5%へ引き上げ、小麦・大豆の自給率もそれぞれ8.0%、43.5%へ引き上げることを目標に掲げたという。でも現実は厳しく、デジタル育種などの新技術に頼らざるを得ない状況だ。
日本の38%という数字は、第二次世界大戦の直後や、江戸時代において、日本の自給率はほぼ100%だったと考えられるが、終戦直後は餓死者がでるような状況であったということを考えると、単純に高ければいいわけではない。でも38%は明らかに低すぎる。
ウクライナ危機で小麦価格が暴騰したように、有事の際の食料価格高騰は凄まじい。台湾海峡で何かが起きれば、中国からの輸入は止まる。その時、私たちはどうなるのか。
なら、どうすればいいのか
ここまで書いてきて、正直混乱している。輸入拡大には経済合理性がある。でも食料安全保障は軽視できない。森山幹事長の発言も理解できるし、石破首相の現実論も理解できる。
私なりに考えた「現実的な解決策」はこうだ:
まず個人レベルでできること。
私は最近、近所の農協で「年間契約」を結んだ。前払いで年間240kg(4人家族分)を確保し、農家の経営安定に直接貢献している。価格は高いが、これを「食料安全保障への保険料」と考えている。
ふるさと納税も積極活用している。年間上限額の30%を米のふるさと納税に充てれば、実質的な負担を大幅に軽減できる。
でも、こうした個人の努力だけでは限界がある。
政策レベルでは、農林水産省の「食料安全保障支援事業」が始まっている。
地方自治体の取り組みも重要だ。山形県では子育て世帯への米現物支給を実施している。
※こども・子育て支援施策 まるわかりガイドブック 2025 参照
一方で、輸入米の品質向上も無視できない現実だ。カリフォルニア州の日系農場で生産される「国宝ローズ」は、価格は国産コシヒカリの約6割だが、食味はかなり改善されている。用途別の使い分け(家庭用は国産、業務用は輸入)という現実的な選択肢もある。
私たちが選ぶ未来

最後に私の本音を書く。森山幹事長の「主食のコメを外国に頼ってはいけない」という発言に、多くの人が反応したのは、心の奥底で感じている不安があるからだろう。
確かに経済効率だけを考えれば、安い輸入米を使えばいい。でも「主食」というのは、単なる栄養補給以上の意味がある。それは文化であり、アイデンティティであり、地域の風景でもある。
私の祖父は茨城で稲作をしていた。黄金色に輝く稲穂を見ながら「この景色を守るのが俺たちの使命だ」と言っていた。その意味を今になって理解する。
輸入米が全て悪いわけではない。でも「安いから」という理由だけで主食を外国に委ねるのは、取り返しのつかないリスクを背負うことになる。
スーパーのレジで手に取るその一袋の米が、この国の未来を決める。あなたは今日、どんな米を選びますか?
価格だけでは測れない価値がそこにはある。そのことを忘れてはいけない。
#コメ価格高騰 #食料自給率 #農業の未来 #食料安全保障 #輸入米問題 #農政 #日本の食卓 #米騒動2025
コメント