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焦がしバターは生きている ― 五感で感じる料理の科学と哲学

黒いフライパンの中で、バターが溶けて泡立ち、香ばしい焦がしバターになっている。 バター
フライパンでバターを熱すると、甘く香ばしい香りが立ち上ります。これは美味しい料理ができる合図ですね。AIが描いたイメージです。

こんにちは、淳子です。札幌のレストランで働いて6年目になりますが、今日はどうしても皆さんにお話ししたいことがあるんです。

先月、尊敬する先輩シェフが焦がしバターを作りながらぽつりと言った言葉が、今でも頭から離れません。

他の作業全部止めて、鍋に集中。音を聞いて、香りを嗅いで、色を見て。「バターは生き物だから」って言葉が今も耳に残ってます。

科学的には: 水分蒸発(100℃) 乳糖分解(120℃) メイラード反応(140-160℃)←ここが勝負 焦げる(170℃以上)←アウト

140-160℃の狭い範囲で、糖とアミノ酸が反応して、あのナッツ様の香りが生まれる。温度計なんて使わない。全部感覚。

私、この瞬間に料理人として何か大切なものに触れた気がしたんです。

「バターは生き物だから」という哲学

正直言って、最初は「生き物って、ちょっと大げさじゃない?」って思ったんですよ。でも実際に先輩の隣でバターと向き合ってみると、その意味がわかりました。

バターって、熱を加えると本当に表情が変わるんです。まるで感情があるみたいに。

私が焦がしバターを作る時、必ず思い出すのは入社2年目の失敗です。電話が鳴って、ほんの30秒目を離したんです。戻ってきたら、美しい琥珀色だったバターが真っ黒に…。あの時の絶望感ったらもう。先輩に「バターが泣いてるよ」って言われて、本当にそう見えたんです。

だから今は、バターを火にかけたら他のことは一切しません。

音の変化に耳を澄ます

最初の「パチパチ」という音、これは水分が逃げていく音なんですけど、なんだか小さな花火みたいで好きなんです。でも本当に集中しなきゃいけないのは、この音が「チリチリ」に変わる瞬間。乳固形分が色づき始めるサインです。

この音の変化、慣れるまでは本当に難しくて。何度も焦がして、何度も先輩に怒られて。でも今では、この音を聞くだけで「あと30秒で完成」ってわかるようになりました。

香りで語りかけてくるバター

香りの変化はもっと劇的です。最初のミルキーな甘い香りから、だんだんキャラメルのような、ナッツのような複雑な芳香に変わっていく。この瞬間、私はいつも「ああ、バターが変身してる」って感じるんです。

ただ、この香りを嗅ぎ分けられるようになるまでは時間がかかりました。鼻が慣れてしまうと、変化に気づけないんですよね。だから今でも、作業中は深呼吸を意識的にして、鼻をリセットしています。

色で見極める最後の判断

そして色。透明な黄金色から琥珀色、そして深いヘーゼルナッツ色へ。この色の変化が一番わかりやすいんですが、同時に一番危険でもあります。「もう少し」って欲を出すと、あっという間に焦げちゃうから。

私の経験では、「もう少しかな?」って思った時が引き上げ時です。迷ったら早めに。これは失敗から学んだ大切な教訓です。

科学の裏側にある魔法

先輩が教えてくれた温度の話、最初はちんぷんかんぷんでした。でも料理の専門学校時代の教科書を引っ張り出して勉強してみると、本当に奥深くて。

水分蒸発(100℃) バターの15~17%は水分なんです。この水分が全部飛ばないと、次の段階に進めません。「パチパチ」音の正体がこれ。当たり前だけど、知ってると音の意味がわかって面白いんですよね。

乳糖分解(120℃) 水分が飛んで、いよいよバターの成分同士が反応し始める準備段階。私はこの辺りから緊張し始めます。

メイラード反応(140-160℃)←ここが勝負! この20℃の幅がすべてを決めるんです。メイラード反応って、糖とアミノ酸が出会って起こす化学反応なんですが、これが数百種類もの香り成分を生み出すって知った時は鳥肌が立ちました。

140℃から160℃の間で、まさに魔法が起きてる。科学で説明できるのに、どこか神秘的で。だからこそ、この瞬間を見逃したくないんです。

焦げる(170℃以上)←アウト! 160℃を超えた途端、美しいメイラード反応は炭化に変わります。香ばしさは焦げ臭に、甘みは苦みに。この変化の速さには今でも驚かされます。

「温度計なんて使わない」の真意

「温度計なんて使わない。全部感覚」

この言葉、最初は職人気質の頑固さかと思ったんです。でも今なら分かります。温度計は一つの目安でしかない。鍋の厚さ、火力、その日の湿度、使うバターの質…全部違うんですから。

数字じゃなくて、バター自身の声を聞く。これが本当の料理だと思うんです。

私も今では、焦がしバターを作る時は温度計を使いません。バターと対話する、そんな感覚です。ちょっと恥ずかしいけど、本当にそう感じるんですよ。

最後に

焦がしバターひとつとっても、こんなにも深い世界があるなんて、料理人になる前は知りませんでした。でも今は、この奥深さが料理の魅力だと思っています。

皆さんも機会があったら、ぜひ試してみてください。最初は失敗するかもしれません。私も何度も失敗しました。でもその失敗も含めて、バターとの対話なんです。

札幌は本当に良いバターが手に入りますから、質の良いものを使ってぜひ挑戦してみてくださいね。きっと、バターが「生き物」だということを実感できると思います。

そして、成功した時の感動は格別ですよ。あの香りが立ち上った瞬間の喜び、一度味わったらやみつきになります。

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