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冷たいバターの秘密!サクサククッキーが生まれる科学と実践のコツ

木製のテーブルの上に、数枚のバタークッキーと大きなチーズの塊が置かれている。 バター
濃厚なバターと、サクサクのバタークッキー。酪農王国・北海道ならではの、最高に贅沢な組み合わせですね。AIが描いたイメージです。

こんにちは、パティシエの淳子です。今日は私がずっと気になっていた「なぜ冷たいバターでクッキーを作るとサクサクになるのか」について、お話ししたいと思います。

実は、料理学校時代の先生にこの質問をしたとき、「とにかくバターは冷たくしなさい」とだけ言われて、なんだかモヤモヤしていたんです。でも、実際にお店で何百回とクッキーを焼いて、失敗も重ねて、やっと理屈が見えてきました。皆さんにも、この「なるほど!」を共有したくて筆を取りました。

まず結論から言うと…

冷たいバターは小麦粉の粒子を脂肪でコーティングして、グルテン(粘りのもと)ができるのを邪魔してくれるんです。 その結果、生地がホロホロと短く崩れやすくなって、焼き上がりがサクサクになります。さらに、焼成中にバターが溶けてできる小さな隙間も、あの軽やかな食感に一役買っているんですよ。

グルテンって何?なぜ避けたいの?

小麦粉には「グリアジン」と「グルテニン」という2つのたんぱく質が入っています。これらが水と出会って、さらに混ぜる力が加わると、まるで網のようにつながり合って「グルテン」になります。パンを作るときは、このグルテンがしっかり発達してくれた方がモチモチして美味しいんですが、クッキーには大敵なんです。

私も最初の頃は、「しっかり混ぜなきゃ」って思って一生懸命こねてしまって、硬くてパンみたいなクッキーを量産してしまいました(笑)。あの苦い経験があったからこそ、今では「グルテンを育てないコツ」を心から理解できています。

バターが果たす「ショートニング」という魔法

バターの主成分は脂肪です。そして脂肪は水を弾く性質があります。これがポイントなんです!

冷たい状態のバター(4〜8℃)は固体なので、小麦粉と混ぜたときに粉の表面に薄い脂肪の膜を作ってくれます。すると、水分が小麦粉に直接触れにくくなって、グルテンの網がうまく作れなくなるんです。結果として、生地は「短く」なります。これが「ショートニング効果」と呼ばれるもので、サクサク食感の秘密なんです。

でも、室温で柔らかくなったバターだと話は別です。粉に練り込まれてベタついて、摩擦熱も上がりやすくて、結局グルテンが発達してしまうんですよね。私も夏場の厨房でこの失敗を何度もやらかしました。

バター状態作業感生地の状態焼き上がりの食感・広がり
冷たい(4–8℃)ほぐれにくいが「切り混ぜ」しやすい粉が脂肪でよくコート、グルテン抑制サクサク・ホロッ、広がり控えめ〜中
室温(18–22℃)クリーム化しやすい空気を抱きやすい、ややグルテン進む軽く柔らか、ややふくらむ/広がる
溶かし(>30℃)混ざりやすいが扱い過多に注意水分と一体化しやすく、広がりやすいザクッと薄めor ベタ広がりのリスク

オーブンの中で起きているドラマ

クッキーをオーブンに入れてから何が起きているか、想像したことはありますか?実は結構ドラマチックなんです。

最初は、バターがまだ固いので生地の形がしっかり保たれています。でも温度が上がってくると、砂糖が溶けて表面がなめらかになって、続いてバターが溶け始めます。この溶けたバターが、先ほど作った「粉と粉の間の隙間」に流れ込んで、水分の蒸気と一緒に微細な空洞を作るんです。

そして60〜70℃くらいになると、デンプンが糊化して卵のたんぱく質も固まって、構造が決まります。最後に水分が飛んで脂肪が再び固まると、あのサクサクした層ができあがるんです。表面ではメイラード反応も起きて、きつね色と香ばしい香りも生まれます。

なんだか、見えないところでこんなにたくさんのことが起きているなんて、感動しませんか?

実践で使えるコツ

理屈が分かったところで、実際に作るときのポイントをお教えしますね。これは私が現場で身につけた「失敗しないコツ」です。

温度管理が全てと言っても過言ではありません。温度計があれば一番いいのですが、なければ指で押してみてください。「へこまない〜やっと少し刻める」くらいの硬さが理想です。

作業スピードも大切です。道具(金属ボウルやカード)も粉も、作業前に5〜10分冷蔵庫で冷やしておくと、摩擦熱を抑えられます。私は夏場は必ずこれをやっています。

混ぜ方は「こねない」が鉄則。カードやゴムベラで「切って、押し合わせる」を繰り返します。指先で触りすぎると体温が移ってしまうので注意してくださいね。

そして、成形前後で生地を15〜30分冷蔵庫で休ませる。これで脂肪が再び固まって、焼いたときの広がりすぎを防げます。

最後に、実験してみませんか?

同じ配合で3種類のバター温度(冷バター5℃、室温バター20℃、溶かしバター35℃)で作り比べてみてください。混ぜ回数もオーブン温度も焼成時間も全部同じにして、生地のベタつき具合、焼き上がりの直径、厚み、割れ方、食感をチェックしてみると面白いですよ。

きっと冷バターが一番広がりにくくて、サクサクになるはずです。

お菓子作りって、こうやって科学の目で見ると本当に面白いんです。「なんとなく」ではなく「理由があるから」そうしている、ということが分かると、失敗も減るし、アレンジもしやすくなります。

皆さんも、ぜひ冷たいバターでサクサククッキー作りにチャレンジしてみてくださいね。きっと「なるほど!」って感じてもらえると思います。




この記事について

執筆者:桜井 淳子
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企画・取材:miku
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この記事は、ITコンサルティングを専門とする 株式会社リミブレイク が運営するメディアとして、独自の取材と分析に基づき制作されました。

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