あの日、私は愛知県の自動車部品工場にいた。 工場長の平田さん(仮名)は、シフトの紙を握りしめたまま、ずっと窓の外を見つめていた。
「みくさん、どう思います?ホントに24%もかけるんですかね」
その声は震えていた。私は何も答えられなかった。
崩れゆく日常

トランプ大統領の「相互関税」。選挙中は誰も本気にしていなかった公約が、今、現実になろうとしている。
「アメリカは損をしすぎた」「日本は不公平だ」
彼のツイートを見るたび、胃がキリキリと痛む。この政策、ただの数字じゃない。人の命がかかっている。
夕方、工場の駐車場で煙草を吸っていた20代の作業員、中村くん(仮名)が話しかけてきた。
「姉ちゃんはジャーナリストなんだろ?おれたちどうなるか知ってる?」
大学を出て3年目の記者に何がわかるっていうんだ。でも彼は待っていた。
「マジで教えてほしいんだ。来月、子供が生まれるんだ」
その夜、私はホテルで泣いた。

たった一人の年寄りの一言が、この親子を…
私には何もできない!!
現場の声
岡崎のある下請け工場では、昼休み、みんな黙々とスマホを見ていた。
「また株価が下がったんだ」と工場長が教えてくれた。
自動車関連銘柄は連日の下落。現場の人たちは、朝から晩まで働きながら、自分たちの未来が市場で値踏みされるのを見ている。
「トヨタが生産移管するってホントですか?」 「うちの会社、半分以上はトヨタ向けなんですよ」 「もうベトナムに引っ越す準備してます」
断片的な言葉が飛び交う。みんな不安で、でも仕事を続けなければならない。
日を改めて訪れた日産の関連会社では、役員が本音を漏らした。
「メキシコ工場に頼っていたのが、今になって仇になるかもしれない」
メモを取りながら、私の手は震えていた。

「働きながら“自分たちの未来”が株価で揺れるって…想像以上にしんどい現実だよね」
数字の向こう側
自動車メーカーの状況はこんな感じらしい:
トヨタ:米国市場シェア14%、輸入比率50%くらい ホンダ:シェア9%で、輸入は4割ほど 日産:シェア6%だけど、メキシコからの輸入多い マツダ:小さいけど、ほぼ全部輸入 スバル:輸入が半分で、価格転嫁が難しい
数字だけ見れば冷たい話。でもこの数字の陰に、何万人もの家族の明日がかかっている。
先日、豊田市のカフェで50代の女性と話した。彼女は部品メーカーの経理部で働いている。
「この町は自動車がすべてなの。私の両親も、夫も、息子も。みんな関連会社で働いてる」
彼女は私の手を握って言った。 「あなたはこの町を救える?」
そんな力、私にあるわけない。でも、せめて真実を伝えることはできる。

政府の対応?
石破首相は記者会見で「アメリカとの外交交渉を最優先する」と言った。経産省は「WTOへの提訴も視野に」と。財務省は「為替の安定に全力を」と。
きれいな言葉ばかり。でも現場は待ったなしだ。
霞が関で若手官僚に話を聞いた。彼は疲れた顔で言った。
「正直、間に合うかわからない。政治決断が遅すぎる」
彼の机の上には徹夜で作ったという資料の山。みんな必死なんだ。でも間に合うのか?

綺麗ごとなんかいらない!!
必要なのは…ここで困っている家族を救う事だろ!!
アメリカで見たこと
先月、デトロイトに飛んだ。かつての自動車産業の中心地。今は廃墟と再開発が入り混じる街。
元GMの工場労働者、トム(65)に会った。彼はビールを一気に飲み干して言った。
「日本車が俺らの仕事を奪った。トランプは正しい」
私は反論したかった。でも、彼の目には怒りと悲しみが入り混じっていた。同じ被害者なのに。
翌日飛んだニューヨークでは、全く違う声を聞いた。
「これは消費者への裏切りだ」 「車の価格は少なくとも4000ドル上がるだろう」 「サプライチェーンはすでにグローバル化している。もう戻れない」
自動車ディーラーのマイクは、実際に窓口で買い控えが始まっていると言った。
「政治の駆け引きで、俺たちの商売が潰れるってか?」
彼は床を何度も蹴った。

「“敵”なんて本当はいないのに…
怒りの矛先がバラバラで、やるせなくなる」
私たちの明日
実家に電話したら、父が案外冷静だった。 「みく、日本はこれまでも乗り越えてきた。今回も大丈夫だ」
本当にそうだろうか。
私の幼馴染の多くは自動車関連で働いている。今年結婚する友達も、家を買った友達も、子供が生まれる友達も。
トランプ大統領がツイッターで一言つぶやくだけで、彼らの人生が変わるかもしれない。これが本当の「アメリカ・ファースト」の姿なのか。
この一ヶ月、私は毎日遅くまで取材を続けた。社に帰ると、先輩たちも深夜まで残って記事を書いている。みんな必死だ。
この記事を書いている今
トランプ大統領がまた新しいツイートを投稿した。 「日本との交渉は進展している。しかし必要なら関税も辞さない!」
株価がまた動くだろう。誰かの運命がまた変わるかもしれない。
部品工場で会った中村くんは、今頃何を考えているだろう?来月生まれる彼の子供は、どんな日本で育つのだろう?
私にできることは少ない。でも、あの駐車場での約束は守りたい。
「おれたちの声を届けてくれよ」
その言葉を胸に、今日も私はキーボードを叩く。
(経済部・斎藤みく)
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