文・岡本みゆき
衝撃の発表、ソニーが円盤から撤退
今年1月、ソニーが記録型光ディスクの生産終了を発表した時、正直言って私も驚いた。ブルーレイディスク(BD)といえばソニーの代名詞。2006年にパナソニックと共同開発し、HD-DVDとの規格戦争を制した立役者だ。その象徴的企業が「もういらない」と言ったことで、多くの人が「円盤時代の終焉」を感じたのも無理はない。
私の周りでも、「録画したアイドル番組どうしよう」「推しのライブ映像が今後買えなくなるの?」と不安の声があがっている。特に日本の「保存文化」と相性がよかったBDだけに、この発表の衝撃は大きかった。
配信サービスの台頭が円盤を駆逐?
なぜBDが衰退したのか。答えは単純だ。
「NetflixやAmazon Prime Videoが強すぎる」
月額1,000円程度で何千本もの映画やドラマが見放題。スマホでもタブレットでもテレビでも、どこでも視聴可能。しかも最新作がどんどん追加される。こんな便利さには、正直なところ物理メディアは太刀打ちできない。
私自身、以前は好きな映画をBDで集めていたが、最近は「あ、これPrimeにあるじゃん」で済ませることが増えた。特にDisney+の登場で、マーベル作品やスター・ウォーズがほぼ独占配信されるようになり、購入する理由がさらに減った。
ただ、配信の便利さの裏には犠牲もある。配信が停止されれば見られなくなるし、特典映像が省略されることも多い。最近では過去作品の一部シーンが「不適切」として削除・修正されるケースまで出てきた。「永久保存」「改変されない」「確実に手元にある」という物理メディアの強みは、実は侮れないものがある。
「推し活」という救世主
「ブルーレイはオワコン」という空気が漂う中、実は意外な分野で根強い需要が続いている。それが「推し活」の世界だ。
推し活とは何か?簡単に言えば、アイドル・俳優・アニメキャラ・Vtuberなど、自分の「推し」を全力で応援する活動のこと。ただ見るだけでなく、応援・収集・記録・保存といった「参加型のファンダム」が核心にある。

“推し”のためなら、ディスクだって保存用・鑑賞用・布教用で3枚買うよね
推し活をしている人たちの行動パターンを取材してみると、こんな声が聞こえてきた。
「推しの地上波出演は必ずBDに焼いて保存してる」(24歳・女性)
「ライブBDの初回限定盤は全種類買う。特典フォトカードも集めてる」(27歳・男性)
「配信だと画質が安定しないから、重要なライブは絶対にディスクで買う」(22歳・女性)
つまり推し活においては、ブルーレイは単なる保存媒体ではなく、「推しへの愛」を形にする手段として機能しているのだ。
ブルーレイの供給不安
しかし、ソニーの撤退により、BDメディアの安定供給は不透明になっている。現在はパナソニックや台湾メーカーが生産を継続しているものの、特に大容量のBD-XL(100GB以上)は価格上昇傾向にある。
SNSでは「ソニー製ディスクを買いだめしている」「今のうちに録画環境一式揃えておくべき」という声も散見される。私も秋葉原を取材したところ、BD関連機器の在庫確保に走る人たちを複数目撃した。
ハードウェア側も心配だ。ブルーレイレコーダーや再生機器の新モデル数は減少傾向にあり、将来的には中古市場に頼らざるを得ない状況も想定される。推し活を続けるためのインフラが徐々に細っていくのは、ファンにとって切実な問題だ。
進化する「円盤文化」の可能性
ブルーレイは本当に消えゆく運命なのか?
私はむしろ逆に、特定分野での「深化」が起きるのではないかと考えている。
まず、コレクターズアイテムとしての価値が高まるだろう。推し活やアニメ、2.5次元舞台など、熱量の高いコアなファン層に特化した商品展開が加速するはずだ。実際、アニメやアイドルのBDは豪華特典付きの限定版が主流になりつつある。
例えば、あるアイドルグループの最新ライブBDは通常版が8,000円なのに対し、特典映像・ブックレット・トレカ付きの限定版は15,000円。それでも予約段階で売り切れるほどの人気だった。「推しのためなら惜しまない」という消費行動が、BDビジネスのサステナビリティを支えている。
また、長期保存メディアとしての再評価も進んでいる。放送局や図書館、教育機関などでは、改ざん不可能で耐久性の高いBDが依然として選ばれている。特にBD-XLの安定性は、HDDやSSDでは代替しづらい価値を持つ。
「選ばれた文化」への変容
確かにソニーの撤退は「終焉」のサインに見える。でも実際には、それが「選ばれた文化への進化」なのかもしれない。
「誰でも気軽に使うもの」から「わかる人だけが大切にするもの」へ。
「一般消費財」から「趣味の世界で愛される文化財」へ。
東京・中野のレコード店の店主は私にこう語った。
「LPレコードだって一度は死んだと言われた。でも今、若い子たちの間で復活してるじゃない。モノには魂があるんだよ。データだけじゃ満足できない人は必ずいる」
その言葉を聞いて、私はハッとした。
何も「円盤VS配信」という二項対立で考える必要はないのだ。両者は共存できる。むしろ配信全盛だからこそ、「本当に大切なものだけを円盤に残す」という新しい文化が生まれつつあるのかもしれない。
ある熱心なアイドルファンの言葉が印象的だった。
「推しがいる限り、円盤は死なない」
この言葉が、意外と正しい未来予測になるかもしれない。今度の休日、私も久しぶりに推しのライブBDを買いに行こうと思う。
(取材・文 岡本みゆき)
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