文・みゆき
ロッカールームはシーンと静まり返っていた。ふいに、大谷翔平の足音だけが響く。仲間たちとの距離感が、まるで目に見えるよう。
4月4日(日本時間5日)、ドジャース対フィリーズ戦。雨の降りそうな肌寒い夜、私は何か起きる予感がしていた。
あの場面。1点ビハインド8回表、1アウト一塁。大谷がスタートを切った瞬間、隣の記者が「えっ、今?」と小声で漏らした。私も同じことを思った。次打者はマンシー、チームきっての長打者だ。この場面で盗塁なんて……。
結果は間一髪アウト。大谷が立ち上がってベンチへ向かう背中には、何か重いものが見えた。
「ここで走るな」監督の本音
「行くなら確実にセーフにならないといけない」
記者会見でのロバーツ監督の言葉。冷静な口調だったけど、私には「走るな」という本音が透けて見えた。実は監督、今シーズンに入ってから何度か大谷に「状況によっては走るな」と伝えているという。球団関係者が試合前、雑談の中でこぼした言葉だ。もちろんオフレコ前提。
監督も人間だもの。怒りが全くなかったわけじゃない。会見後、廊下でマシソン・ヘッドコーチが「デイブ(ロバーツ監督)はもっと言いたいことあったよ」とポツリ。それ以上は話さなかったけど、表情は硬かった。

「“冷静に見えて、内心めちゃくちゃ葛藤してたんだろうな”って…言葉の裏が沁みた」
悪くない数字に潜む不安
大谷の盗塁成績、実はそんなに悪くない。
年 | 盗塁成功 | 盗塁失敗 | 成功率 |
---|---|---|---|
2021 | 26 | 4 | 86.7% |
2022 | 11 | 3 | 78.6% |
2023 | 20 | 5 | 80.0% |
2024 | 16 | 6 | 72.7% |
2025年4月5日迄 | 3 | 2 | 60.0% |
数字だけ見れば平均以上。でも気になるのは下降傾向。特に今季はまだシーズン序盤だけど、成功率が6割。まあ試行回数少ないからこれだけで判断はできないけど、チーム内では「走らせていいのか問題」が水面下で出ている。
昨日たまたま聞いた会話。打撃コーチが「彼のスタートのタイミング、前よりも遅くなってる」って。捕手のスミスが「それに投手読みも甘い」と答えていた。彼らは私に話していたわけじゃない。けど記者の耳は四方八方に向いてる。
揺れる現場の空気

「日本では大谷が『走る』と言えば誰も止めなかったんじゃないかな」
球団幹部の何気ない言葉。彼は悪気なく言ったんだと思う。でも、そこには「ここはメジャーリーグだぞ」というプライドが隠れてる。
更衣室での微妙な空気。大谷が入室すると、会話が一瞬途切れる。悪意はないけど、まだ壁がある。ある選手は「全然問題ないよ。みんな彼を信頼してる」と言ったけど、笑顔が引きつってた。
ドジャースのベテラン選手。名前は出せないけど「通訳抜きで話したいけど、難しいよね」って私に言った。彼によれば、盗塁サインについての話し合いが十分じゃないらしい。監督の考えと大谷の理解にズレがある。
「大谷だからって特別扱いしてほしくない」って一部の選手は思ってる。でも口には出さない。年俸5000万ドルの選手に何も言えないよね、普通は。
SNSの闇と光
私のSNSには試合後、日本人からの批判コメントが殺到した。私はただ「この場面での盗塁は疑問」って書いただけなのに。日本では大谷批判タブー視されすぎ。「日本の誇り」って、プレーまで神格化する必要ある?
一方で米国人ファンのリアクションは冷静。「監督の判断が全て」「チームプレーが大事」という意見が多い。文化の違いなのかな。
正直言って、日本のメディアは大谷に甘すぎる。今回だって「惜しかった!」「積極的な姿勢が光る」みたいな論調ばかり。現実見てる?勝負の世界は結果だよ。
明日への不安と希望
今日の朝練習、大谷は通常より1時間早く到着。誰もいないグラウンドで黙々とスライディングの練習してた。横で通訳さんがストップウォッチで時間計測してる。
人目を避けてる感じだったから、距離置いて見てたけど、必死さが伝わってきた。帰り際、通訳さんが「みゆきさん、今日のは記事にしないでください」って頼んできた。だから詳細は書かないけど、大谷は何かを変えようとしてる。
監督との個人面談もあったらしい。球団広報は「日常的なミーティング」って言ってたけど、タイミング的に考えれば……ね?
私はまだ21歳。取材経験浅いし、野球知識だって完璧じゃない。でも見たままを書くよ。美談に仕立てるのは簡単。現実はもっと複雑で、泥臭くて、時に残酷。
いい記事書きたいだけじゃない。この目で見た真実を伝えたい。
今夜また大谷は走るのか。監督は信頼するのか。チームメイトは受け入れるのか。
答えはグラウンドにある。
(取材・文 みゆき)
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大谷翔平、8回の盗塁死にロバーツ監督は苦言「あの場面…行くなら確実にセーフにならないといけない」
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