文・写真 かずみ
西成の三角公園で見かけた”ダルビッシュの弟”
大阪・西成区の三角公園。木曜の夕方になると、長い列ができる。
「いつもありがとう!」
「今日のカレーうまいわ」
行列の先頭で笑顔を振りまきながら食事を配る男性がいる。ダルビッシュ翔さん(36)だ。
メジャーリーガー・ダルビッシュ有投手の実弟であり、かつて”ワルビッシュ”と呼ばれた男が、なぜここで炊き出しをしているのか。
私が取材を申し込んだとき、翔さんは「俺みたいな前科者の話、載せて大丈夫?」と電話口で笑った。その率直さに、興味をそそられた。

“ワルビッシュ”だった彼が、今は誰かの“ごはんの希望”になってるって…胸熱すぎる
11回の逮捕歴と “影” の自覚

「兄貴は光やったけど、俺は影やった」
初めて会った翔さんはそう語った。思ったより小柄だが、鍛えられた腕には刺青が見える。目は優しいのに、声は少し荒い。
「11回も捕まったんです。最初は16歳の時。暴行、窃盗、傷害…親にも兄貴にも迷惑かけまくりました」
なぜそこまで?と聞くと、翔さんは少し考えて「劣等感かな」と答えた。兄は高校時代から注目され、プロ入り後は国民的ヒーローになった。一方の自分は勉強も運動も中の下。
「比べられるのがイヤで、イヤで。だから反発した。『俺はお前らの思い通りにはならん』って」
コロナ禍で消えた炊き出し
転機は2020年に訪れた。コロナ禍で西成の炊き出しがほとんど中止になったと知った翔さんは、ふとこう思った。
「俺にもできることがあるんじゃないか」
炊き出しを始めた当初は反対の声も多かった。「前科者が何をやるんだ」「目立ちたいだけだろ」…。それでも翔さんは毎週木曜日、三角公園に立ち続けた。
「最初は30人くらいやったのに、今じゃ毎回150人以上来るんですよ」
翔さんが見せてくれた写真には、老若男女が笑顔で並ぶ姿があった。ホームレスだけでなく、生活に困窮する家族連れも増えているという。
「兄貴はいつも見守ってくれてる」
兄・有投手との関係について尋ねると、翔さんは少し照れた表情を見せた。
「兄貴の会社から『応援させてくれ』って連絡があったんです。でも俺は最初、断りました」
理由を聞くと「自分の力でやりたかった」と答えた。弟として、男として、プライドがあったのだろう。
「でも今は少し援助してもらってます。兄貴も静かに見守ってくれてる。今まで心配ばっかりかけてきたからね…」
翔さんの目が少し潤んだ気がした。
「更生」ではなく「続けること」
取材中、気になったのは翔さんが「更生した」という言葉を使わないことだ。
「更生って何ですか?って聞かれたら、わからないって答えます」
驚いた私に、翔さんはこう語った。
「更生って結果じゃなくて、過程だと思うんです。一度良いことしたから更生じゃない。毎週ここに来て、必要としてる人にご飯を渡す。それを続けるだけです」
シンプルだけど重い言葉だった。
食事の向こう側にあるもの

炊き出しの日、私も手伝わせてもらった。カレーライス、みそ汁、漬物、果物。普通の家庭料理だが、受け取る人の表情は様々だ。
黙って受け取るだけの人。「いつもありがとう」と言う人。時には涙ぐむ高齢者も。
「食事はきっかけなんです」と翔さんは言う。「本当に必要なのは、誰かとつながること。認められること。必要とされること」
確かに。列に並ぶ人たちは食事だけでなく、翔さんとの会話や、他の参加者との交流を求めているように見えた。
未来への展望
「将来は常設の支援拠点を作りたいんです」
翔さんの夢は尽きない。元受刑者の居場所づくり、子ども食堂、就労支援…。
「ボランティアなら日本一になれるかもしれへん」
笑いながら言う翔さんだが、真剣さは伝わってくる。
「俺みたいなのが変われるなら、誰だって変われるんです。それを証明したい」

“変われる”を証明しようとしてる翔さん、かっこよすぎる…本物の強さだよね
取材を終えて
取材後、駅までの道のり、翔さんは私にこう聞いた。「記事書くとき、『元不良』とか『前科者』って書くんでしょ?」
正直に「そうなると思います」と答えると、彼は意外な返事をした。
「それでいいんです。隠したくないし、それが事実だから。でも、その先の話も書いてほしい。人は変われるって」
帰りの電車で考えた。人は変われるのか?という問いに、翔さんは言葉ではなく行動で答えている。
毎週150人に食事を届け、全国から注目される支援者となった彼の背中は、過去を悔いるだけでなく、未来を信じる姿そのものだった。
(西成にて・かずみ)
「兄貴も含めて周りに心配かけてきた」ダルビッシュ有の“ワルの弟”と呼ばれたダルビッシュ翔(36)が、西成で炊き出しを続ける理由
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