【地上波アニメ×生成AI】制作現場のリアルとクリエイターの本音

制作現場を歩いて3年。若手ルポライターの視点から業界の「今」を伝えます。

最近、アニメスタジオを回っていて驚いたことがある。モニター越しに見たのは、人間ではなくAIが描いた背景美術だった。しかも、それは地上波で放送予定の作品だという。

「これ、全部AIなんですか？」

そう尋ねると、若手プロデューサーは少し照れくさそうに頷いた。

「一部ね。でも修正は人間がやってるから」

アニメ制作の現場で、生成AIの活用が静かに、しかし確実に広がっている。この流れは果たして朗報なのか、それとも脅威なのか。現場の声を集めてみた。

疲弊する現場にAIは救世主になるのか

「正直、助かっています」

あるアニメーターはそう打ち明ける。彼は週に70時間以上働きながら、月収は手取りで18万円だという。

アニメ業界の労働環境の過酷さは以前から指摘されてきた。特に背景美術や原画といった工程は、膨大な時間と技術を要する。そこに生成AIが介入することで、作業時間の短縮が期待されている。

ある中堅スタジオのプロデューサーは「単純作業をAIに任せることで、クリエイターは本来やるべき創造的な仕事に集中できる」と語る。

一方で、AIならではの表現も生まれつつある。従来の手描きアニメでは表現しきれなかった複雑な光の表現や、独特の質感を持つ背景など、新たな可能性も見えてきた。

メリット	詳細
制作スピードの向上	作画や背景制作、動画編集の一部を自動化し、作業時間を短縮
クリエイターの負担軽減	ルーチンワークをAIに任せ、アーティストが創造的な作業に集中可能
新たな表現の可能性	AI独自の映像表現が生まれ、従来の手描きや3DCGとは異なるスタイルを実現

「でも、AI任せにすると作品の魂が抜けるんじゃないかって心配もある」と現役アニメーターは言う。確かにその懸念は理解できる。人間の手による微妙なタッチや感情表現は、現時点のAIでは完全に再現できないからだ。

「このままじゃ、俺たちの仕事がなくなる」

ベテランの原画マンはそう不安を口にする。特に50代以上の世代には、AIに対する不信感が強い。彼らにとって「手描き」こそがアニメの本質であり、AIによる自動生成は邪道に映るのだろう。

実際、AIが得意とする背景美術やトゥーン処理の分野では、すでに人間の仕事が減りつつあるという声もある。

私が取材したあるフリーランスの背景美術家は「最近、仕事の依頼が明らかに減った」と打ち明けた。彼の推測では、これまで彼に依頼されていた仕事の一部がAIに置き換わっているという。

さらに怖いのは著作権問題だ。AIが学習する素材には、当然ながら既存のアニメ作品も含まれる。ある意味では、過去の作品のスタイルや特徴を「盗用」しているとも言える。この点について、業界団体もガイドラインの策定を急いでいるが、法整備が追いついていないのが現状だ。

懸念点	詳細
クリエイターの雇用問題	背景美術などの専門職の仕事が減少する可能性
AIの学習素材と著作権	AIが既存の作品を学習することで著作権問題が発生する恐れ
AI特有の不自然さ	建物の歪みやキャラクターの表情の機械的な違和感など、修正が必要な場合がある

実際に私もAIが描いた画を見せてもらったが、一見すると素晴らしいクオリティなのに、よく見ると何か「違う」のだ。例えば、街並みの遠近感がおかしかったり、人物の指の本数が合わなかったりする。現状では、AIが生成した画像は必ず人間のチェックが必要だ。