ETCシステム障害によって混雑する日本の高速道路料金所と困惑するドライバーたちの様子 事件

ETCシステム障害:後日払いの迷宮と社会インフラの脆さ

文・報告:かずみ(21歳 ルポライター)

高速道路の青いETCゲートが突然機能を停止する。想像してみてください。今や当たり前となった便利な仕組みが、前触れなく崩れ去る瞬間を。

2025年4月6日未明。私が取材を終えて帰宅した直後、日本の大動脈に異変が走りました。私自身も翌朝の取材のために使う予定だった高速道路のETCシステムが、まるで意思を失ったかのように「沈黙」したのです。

この出来事は私の目を覚まさせました。私たちの便利な日常がいかに細い糸の上で成り立っているのか。そして、その糸が切れたとき、何が起こるのか——。

ETCシステム障害によって混雑する日本の高速道路料金所と困惑するドライバーたちの様子

午前0時30分、高速道路が息を止めた

時計の針が2025年4月6日の午前0時30分を指したその瞬間。誰もが眠りについていた深夜、NEXCO中日本が管轄する高速道路網の中枢で、何かが静かに、しかし致命的に狂い始めていました。

前夜に行われていた「儀式」——深夜割引の見直しに伴うETCシステムの改造作業。これは、より良いサービスを目指すための未来への投資だったはずです。

「私たちは23時から作業を開始し、テスト環境では完璧に動作していたんです。でも本番環境ではどこかで不具合が…」と、匿名を条件に取材に応じたNEXCO関係者は当時を振り返ります。

中央道の一部で最初に確認された「小さなエラー」は、まるで感染症のように瞬く間にネットワーク全体へと広がっていきました。東名、新東名、名神、東名阪…。デジタル神経系の、突然の麻痺でした。

「深夜に千葉から山梨の実家に向かっていたんです。ETCゲートに差し掛かったとき、バーが開かなくて…そのうち後ろに車が並び始めて、パニックになりました」と語るのは、30代の会社員・鈴木さん(仮名)です。

別の地点では逆の現象も起きていました。「勝沼ICでゲートが開きっぱなしだったんです。料金表示もなし。どうしたらいいのか分からなくて、とりあえず通過しました」と証言するのは、山梨県在住の田中さん(42歳・自営業)。

1都10県、17路線、106箇所——この数字が示すのは、単なる地点の数ではありません。機能不全に陥った社会の血管の数なのです。

影響エリア(都府県)影響路線数影響料金所数現場の声
1都10県17路線106箇所「バーが開かない!どうなってんだ!?」(八王子)
(東京, 神奈川, 山梨, 静岡, 愛知,「え、料金表示されない…行っていいの?」(東京)
岐阜, 三重, 長野, 福井, 石川, 滋賀)「スマートIC閉鎖!?嘘だろ!」(地方)

最悪の事態は、渋滞でした。中央道上り、八王子料金所付近で最大約25km。東名高速上り、東京料金所付近で最大約20km。動かなくなった時間の帯。私も翌朝のニュースでこの状況を知り、予定していた取材先への移動手段を急きょ変更せざるを得ませんでした。

悲劇はさらに重なります。愛知県内の東名阪道。渋滞の最後尾で起きた追突事故。都合6件の関連事故が、システムダウンという「見えない手」によって引き起こされました。

「渋滞最後尾で止まっていたら、後ろからドーンときました。相手の方も『急な渋滞で驚いた』と。幸い大きなケガはありませんでしたが、車は…」と話す名古屋市の河合さん(35歳)の表情は暗く沈んでいました。

37時間半の死闘——見えない敵との戦い

社会インフラが麻痺した37時間半。その裏側では、人知れぬ戦いが繰り広げられていました。

「まさに死闘でした。徹夜でコードを見直し、一つのエラーを直すと別のエラーが発生する…悪夢のような時間でした」と語るのは、匿名のシステムエンジニア。NEXCO中日本の技術チームの一員として、まさに見えない敵——複雑怪奇なプログラムコードと沈黙したサーバー群——と対峙していたそうです。

降り注ぐ問い合わせの電話。SNSで拡散される混乱の声。そして何より、停止したインフラを再び動かさなければならないという重圧。

「電話対応チームは悲鳴を上げていました。『いつ復旧するんだ』『補償はどうなる』…そんな問い合わせが次から次へと」とカスタマーサポート部門の関係者は振り返ります。

そして、2025年4月7日(月) 午後2時。長く苦しい戦いの末、ついに「応急復旧完了」の一報がもたらされました。

「応急」——この言葉の裏に隠された真実を見過ごしてはなりません。それは完全な勝利宣言ではなく、出血箇所を一時的に押さえた状態にすぎないのです。原因の根本解決はまだ先のことでしょう。

ようこそ、「後日払い」の迷宮へ

「応急復旧」という一筋の光が見えた一方で、多くの利用者の前には「後日払い」という名の新たな迷宮が立ちはだかりました。

私も取材で高速道路をよく使うので、もしかしたら自分も対象かもしれないと思い、すぐにETC利用履歴を確認しました。幸い、私のカードには異常はありませんでしたが、多くの方がこの迷宮に足を踏み入れることとなりました。

「ETC履歴を見たら『確定料金0円』って出ていて。おかしいなと思ったら、どうやら『後日払い』の対象になったみたい」と話すのは、週末に家族でドライブに出かけたという神奈川県在住の木村さん(40代)です。

なぜ後で払わなければならないのか?その理由はシンプルです。システムダウン中、ETCゲートを通過した記録——いつ、どこからどこまで走り、いくら払うべきか——が、NEXCO側のコンピュータから消失、あるいは正常に記録されなかった可能性があるからです。

みく
みく

「“確定料金0円”…最初はラッキーかと思ったけど、

実は“あとで請求”のフラグって怖すぎる」

「まるで『ごめんなさい、システムが壊れちゃったので、あなたが自分で走行記録を教えてくれて、正しい料金を払ってくれませんか?』って言われているようなもの。こっちは被害者なのに…」と木村さんは苦笑いします。

まず、自分が「選ばれし者」(後日払いの対象者)かどうかを確認する必要があります。

  1. 運命の日時・場所を通過したか?(4/6 0:30頃~4/7 14:00頃、NEXCO中日本管轄の料金所)
  2. ゲート通過時、異変はなかったか?(バーの異常、料金表示なし/エラーなど)
  3. ETC利用履歴という名の「証拠」を確認する(「未精算」「調整中」「通信エラー」や料金が「0円」になっていないか)
  4. それでも迷ったら、NEXCO中日本の専用WEBページで確認するか、お客さまセンターに電話する

「一番厄介だったのは、バーが開いて、料金も表示されたから『大丈夫なんだ』と思ったこと。でも実はシステム内部では記録が飛んでいたみたい。後日、履歴を確認して初めて気づきました」と語るのは、東京都在住の会社員・山田さん(35歳)です。

迷宮に足を踏み入れた人は、NEXCO中日本の公式サイトで後日払いの手続きを行う必要があります。

「車検証、ETCカード、利用区間の記録…色々準備して手続きしましたが、正直面倒でした。土日をつぶして…」と話す京都府の大学教授・佐藤さん(50代)の表情には疲れが見えました。

当初、「2日以内」という期限が噂され、多くの利用者を恐怖させました。しかし、NEXCO中日本は後に「期限によらず、手続きをお願いします」と軌道修正。一応の猶予は与えられましたが、忘れると「不正通行」とみなされる恐れがあります。

「私は正直に申告しましたけど、これって自己申告だから、悪意ある人は『通ってません』って言えますよね?真面目に払う人が損する気がして…」と佐藤さんは不満を漏らします。

「微妙…」に込められた魂の声

SNS上で話題になった「微妙、ちゃんとやりますが」という一言。それは単なる感想ではなく、現代を生きる私たちの複雑な心の叫びそのものです。

私もこの言葉に強く共感しました。「微妙」という言葉には、便利さへの依存、不透明なシステムへの不信、そして理不尽さへの諦めが複雑に絡み合っています。

「便利だから使っているのに、いざトラブルになると『自分で申告してね』って…何のためのETCなんだって思いますよね」と話すのは大阪府の会社員・中村さん(28歳)です。

Twitter(現X)などSNS空間では、様々な声が上がりました。

「ふざけるな!NEXCO!」(運営への直接的な怒り) 「真面目に手続きする人が損する社会はおかしい!」(不公平感への怒り) 「時間返せ!金返せ!」(巻き込まれたことへの怒り)

不安の声も多く見られました。 「私も対象かも…どうしよう…」 「手続き、これで合ってるのかな…」 「日本のインフラ、もうダメかも…」

一方で、困難な状況でも助け合う人々の姿も。 「このサイト見やすいよ!」 「電話繋がった!こう聞かれたよ!」

これは現代社会の縮図です。怒りや不安が瞬時に増幅される一方で、顔も知らない誰かと繋がり、知恵を出し合って困難を乗り越えようとする人間の逞しさもそこにはありました。

「SNSで『こうやって手続きするといいよ』という投稿を見つけて、すごく助かりました。NEXCOの説明より分かりやすかったです」と話す愛知県の主婦・井上さん(45歳)の言葉が印象的でした。

見過ごされたコスト——社会全体が負った「傷」

渋滞による経済損失、事故による人命への影響…。これらは氷山の一角です。社会全体が負った「傷」は、もっと深いものでした。

「配送が遅れて、取引先からクレームが…。『ETCシステム障害で』と説明しても、『それはお宅の言い訳でしょ』みたいな反応をされて」と語るのは、物流会社の営業マネージャー・高橋さん(42歳)です。

観光業界にも影響が及びました。「予約していたお客様が大渋滞で到着が大幅に遅れ、当日のプランを大幅に変更することに。『二度と来ない』と言われてしまいました」と静岡県の旅館の女将は肩を落とします。

影響分野隠されたコスト・傷跡
物流・運輸・ドライバーの精神的負担増大、「運び手不足」への追い打ち<br>・サプライチェーン全体の信頼性低下
観光・レジャー・旅行体験の悪化によるリピーター減少の可能性<br>・「高速道路は unreliable」というイメージの定着リスク
企業活動・従業員のエンゲージメント低下(理不尽な状況への不満)<br>・BCP(事業継続計画)の見直しコスト
行政・公共・インフラ管理体制への国民の信頼低下<br>・他の重要インフラへの波及リスク懸念
個人生活・「またか」という諦め、社会への無力感の増大<br>・デジタルデバイド(情報格差)による手続き困難者の発生リスク

これらのコストは、すぐには表面化しないかもしれません。しかし、じわじわと社会の活力を蝕んでいく可能性があります。「たかがETC」では済まされない、構造的な問題なのです。

取材中に出会った80代の高齢者は「ETCカードは持っているけど、インターネットで手続きなんてできない。息子に頼むしかないけど、忙しくて…」と途方に暮れていました。デジタルデバイドの問題も見過ごせません。

夜明けは来るか?——教訓を胸に、未来への道を切り拓く

このETCトラブルという名の「夜」から、私たちは何を学び、どのような「朝」を迎えるべきなのでしょうか。取材を通じて見えてきた未来への羅針盤を共有したいと思います。

まず、個人として刻むべき教訓。

  1. 便利さは脆いガラス細工だと知ること。代替手段とリスク意識を常に持つこと。
  2. 情報の海を、羅針盤を持って渡ること。疑う目と確かめる足を持つこと。
  3. 自分のデータは自分で管理すること。定期的にチェックする習慣をつけること。
  4. 一人で悩まず、声を上げること。建設的な意見は社会を変える力になる。

「ETCカードの履歴、今回のトラブルがなければ確認することなんてなかったと思います。でも今後は毎月チェックするようにします」と話す山田さんの言葉が胸に響きました。

今すぐできることもあります。

  • NEXCO等の公式サイトを「お気に入り」に入れ、定期的にチェックする
  • ETC利用履歴照会サービスを家計簿のように確認する習慣をつける
  • 高速道路を使う際は、現金やETC以外の支払い手段も用意しておく
  • 余裕を持ったスケジュールを組む

一方、NEXCO中日本をはじめとするインフラ事業者にも求めたいことがあります。

  • 透明性のある情報公開(何が起きたのか、根本原因は何か)
  • システム設計の抜本的見直し(障害に強い冗長性のある設計へ)
  • コミュニケーション改革(分かりやすい説明、利用者目線の対応)
  • 外部監査の導入(第三者の目による評価)

「今回はシステム改修前の十分なテストが足りなかった面があります。今後はより慎重に進めます」と話すNEXCO関係者の言葉に、再発防止への意志を感じました。

国に対しても、重要インフラの管理基準の強化、事業者間の情報共有の促進、インフラ技術者の育成支援、利用者保護のルール整備などを期待したいところです。

このETCトラブルという名の物語は、私たちの心に何を刻んだでしょうか?便利さと引き換えに、私たちは何を失いかけているのでしょうか?そして、より強く、しなやかな未来を築くために、私たちはどんな一歩を踏み出すべきでしょうか?

完璧な答えはありません。でも、考え続けること、語り合うこと、そして行動することが、きっと新しい景色を見せてくれるはずです。私は一人のルポライターとして、これからも社会のインフラや仕組みについて、鋭く問い続けていきたいと思います。

※この記事は2025年4月7日時点の情報に基づいています。最新情報は必ずNEXCO中日本の公式サイトでご確認ください。

(かずみ/21歳・ルポライター)

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