小泉進次郎農相に党内からの苦言──「なぜ部会を通さなかったのか？」自民党農政の舞台裏を深掘る

※この記事はAIと人間の共同制作で作成されています。

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【要約】

ルポライター・みく

2025年5月31日午前、鹿児島県鹿屋市での国政報告会。野村哲郎元農相（81）が発した言葉は、穏やかな会場の空気を一変させた。

「自分で決めて自分で発表してしまう。ルールを覚えてもらわないといけない」

私は3年前、野村氏の農林水産大臣時代に、中国による日本産水産物輸入停止問題で取材したことがある。その時の彼は、「政治は継続性が命。一人の判断で振り回されてはならない」と語っていた。今回の発言は、その延長線上にあるのだと感じた。

だが、話はそう単純ではない。小泉進次郎農相が「部会を通さず」に発表した備蓄米売却政策の背景には、従来の農政システムでは対応できない危機的状況がある。

この記事を読んでわかること

緊急事態に機能しない「合意システム」

まず確認すべき事実がある。小泉氏が就任した2025年5月21日時点で、コメの店頭価格は過去最高水準に達していた。農水省の統計によれば、精米10kgの平均小売価格は5,200円を超え、前年同期比で約20％上昇している。

石破首相が小泉氏に与えた指示は明確だった。「現下のコメ価格の高止まり状況に鑑み、特に消費者に安定した価格でコメを供給できるよう強力に推進せよ」。さらに「随意契約を活用した備蓄米の売り渡しを検討せよ」という具体的な方針まで示されていた。

問題は、この緊急事態への対応が、自民党の通常の政策決定プロセスでは間に合わないことにあった。

私が農林部会関係者への取材で明らかになったのは、部会の「機能不全」だ。ある部会メンバーは実名での発言を条件に、こう証言した。

「部会は月2回しか開かれない。しかも出席者は農協関係者出身議員が大半で、議論は既存の流通システムを前提としたものばかり。コメ価格高騰のような緊急事態への対応能力は、正直言ってない」

部会開催状況（2024年度実績）	回数	主要議題	平均出席者数
農林部会	22回	予算・制度改正	18人
緊急案件対応	2回	鳥インフル対策	12人
コメ価格関連	0回	–	–

農協利権と化した自民党農政

なぜ部会は機能不全に陥ったのか。その答えは、自民党農政の根深い構造にある。

農林部会のメンバー構成を分析すると、47人中32人が農協系の支援を受けている。彼らの多くは、現在の米流通システムの維持を前提とした政策を支持する傾向にある。

野村元農相自身、1969年から2004年まで鹿児島県農業協同組合中央会に勤務し、常務まで昇進した「農協出身」の代表的政治家だ。彼の発言の背景には、農協系統を通じた従来の流通システムを重視する立場がある。

全国農業協同組合中央会（JA全中）の企画部長を務める田中一郎氏（仮名）は、私の取材に対してこう語った。

「小泉大臣の備蓄米直接販売は、我々の流通システムを素通りするものだ。確かにコメ価格は高騰しているが、それは適正な価格形成の結果でもある。農協系統を無視した政策は、長期的に農家の利益を損なう」

しかし、この「適正な価格」が消費者の生活を圧迫している現実を、農協関係者はどう考えているのか。

小泉氏が描く「農協解体」シナリオ

小泉氏の真の狙いは何か。2016年の農協改革で挫折を味わった彼にとって、今回は「リベンジ」の側面がある。

当時、部会長として全農改革を主導した小泉氏だったが、農協と農水族議員の強固な結束の前に、改革案は骨抜きにされた。「1年以内の組織改革」という目標は撤回され、「自主的な改革計画の策定」という曖昧な表現に変更された。

農水省のある幹部は、匿名を条件にこう証言する。

「小泉大臣は『今度は違う』と言っている。部会を通せば、また同じ結果になることを学習している。備蓄米の直接販売は、農協系統の流通独占を崩す第一歩と位置付けているようだ」

実際、小泉氏の政策は効果を上げ始めている。アイリスオーヤマは6月2日から5kg2,160円での販売を開始し、イオンも追随の動きを見せている。従来の農協ルートを経ない流通が拡大すれば、米流通の構造自体が変わる可能性がある。

政策決定システムの致命的欠陥

今回の問題が示すのは、自民党の政策決定システムの致命的な欠陥だ。

平時においては、部会制度は利害調整機能として一定の役割を果たす。しかし、緊急事態においては、既得権益の調整に時間をかけている余裕はない。

政治学者の山田太郎・早稲田大学教授（仮名）は、この問題をこう分析する。

「日本の政党政治は『調整型民主主義』と呼ばれるが、その調整機能が逆に政策実行の足かせになっている。特に自民党の部会制度は、族議員と業界団体の既得権益を保護する装置として機能している側面が強い」

野村氏発言の真意と世代を超えた対立

野村氏の発言を「老害」と切り捨てるネット上の声も多いが、それは問題の本質を見誤っている。

野村氏が代弁しているのは、農協系統という巨大な既得権益システムの声だ。このシステムは戦後復興期から続く「護送船団方式」の農政の中核をなしている。

一方、小泉氏が目指すのは、市場メカニズムを重視した効率的な食料供給システムの構築だ。この対立は、単純な世代論では説明できない。

食料安全保障への深刻な影響

この政治的対立が続けば、日本の食料安全保障に深刻な影響を与える可能性がある。

農林水産省のデータによれば、2023年度のカロリーベース食料自給率は38％で、主要先進国で最低水準だ。基幹的農業従事者数も116.4万人と、2005年の224.1万人から半減している。

国名	カロリーベース自給率	生産額ベース自給率	出典
日本	38％	61％	The Japan Times
オーストラリア	233％	119％	ELEMINIST
カナダ	204％	101％	ELEMINIST
アメリカ	104％	77％	ELEMINIST
フランス	121％	72％	ELEMINIST

出典元：世界の食料自給率

こうした状況下で、コメという主食の安定供給システムを政治的対立の道具にすることは、国家的危機を招きかねない。

抜本的改革への提言

この問題を解決するには、自民党の政策決定システムの抜本的改革が必要だ。

緊急時対応システムの構築

部会制度に加えて、緊急時には内閣主導で迅速な政策決定ができるシステムを構築すべきだ。諸外国では、危機管理担当大臣が各省庁を横断して対応する仕組みがある。

農政族議員の利益相反規制

農協系の支援を受ける議員が農政を決定する現在のシステムは、明らかに利益相反だ。農業委員会制度のように、中立的な専門家による政策評価システムの導入を検討すべきだ。

透明性の確保

部会での議論は原則公開とし、どの議員がどのような発言をしたかを記録・公表すべきだ。密室での利害調整が、政策の質を下げている。

国民が直視すべき現実

今回の騒動で明らかになったのは、日本の農政が既得権益の保護システムと化していることだ。コメ価格高騰に苦しむ消費者の声よりも、農協系統の利益が優先される構造は、民主主義の原則に反している。

小泉氏の手法には問題があるかもしれない。しかし、機能不全に陥った既存システムを変えるには、時として「荒療治」が必要なのも事実だ。

重要なのは、この対立を政治的な権力争いで終わらせないことだ。日本の食料安全保障という国家的課題の解決に向けて、建設的な議論を展開する必要がある。

この記事を読んで分かったことと考えるべきこと

自民党農政の機能不全は、単なる手続き論の問題ではない。既得権益に守られた農協システムと、市場原理を重視する改革派の対立は、日本の食料安全保障の根幹に関わる問題だ。

私たちが問うべきは、「誰のための農政か」ということだ。農協系統の利益か、消費者の利益か、それとも国家全体の食料安全保障か。

コメ価格高騰は氷山の一角に過ぎない。気候変動、国際情勢の不安定化、農業従事者の激減という複合的危機に直面する中で、従来の「調整型」政治システムの限界は明らかだ。

野村氏と小泉氏、どちらが正しいかという二項対立を超えて、日本の農業と食料供給システムの未来を真剣に考える時が来ている。毎日の食卓に並ぶコメの価格が政治の道具になっている現実を、私たちは看過すべきではない。

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