この記事を読んでわかること
- 2025年6月5日に発生した福岡市東区での高齢ドライバー事故の詳細
- 高齢ドライバーによる交通事故の現状と統計データ
- 現在実施されている高齢者向け運転制度の実情
- 免許返納支援制度の実例と課題
2025年6月5日午後1時50分頃、福岡市東区香住ヶ丘6丁目で高齢ドライバーによる死亡事故が発生した。92歳の男性が運転する車が74歳の女性をはねて死亡させ、その後フェンスを突き破って西鉄貝塚線の線路に進入した 。この事故を機に、高齢ドライバー問題について現状を整理した。
事故の概要
現場は西鉄貝塚線の香椎花園前駅のすぐそばで、車は駅前のロータリーから線路沿いの一方通行の道路を走行中、駅の改札に向かっていた女性をはねた とされている。
車は道路を横断中の女性をはねた後、フェンスを突き破って線路に進入したが、電車への衝突はなかった。西鉄によると、この影響で貝塚線は一時全線で運転を見合わせた 。
警察は運転していた92歳の男性を過失運転致傷の現行犯で逮捕し、後に過失運転致死に切り替えた。
統計で見る高齢ドライバー事故の現実
2023年中の交通事故死者数は2,678人で、8年ぶりに増加した。我が国の高齢化が進展する中、交通事故死者数に占める高齢者の割合が高くなっており、免許人口10万人当たりの死亡事故件数は、75歳以上の高齢運転者による死亡事故が多くなっている 。
警察庁の統計資料によると、2022年の65歳以上の高齢ドライバーによる事故件数は、10年前と比べて65.9%にまで減少した。ただ、全体の事故件数が大きく減少しているのに対し、高齢ドライバーによる事故の割合は、16.3%から24.4%に増えている 。
75歳以上の高齢運転者は、操作不適による事故が最も多く、そのうち、ブレーキとアクセルによる踏み間違い事故は、75歳未満が全体の1.1%に過ぎないのに対し、75歳以上の高齢運転者は7.7%と高い水準にある 。
現在の高齢者向け運転制度
現在、日本では高齢ドライバーに対して以下のような制度が実施されている。
認知機能検査(75歳以上対象)
運転免許証の更新期間が満了する日の年齢が75歳以上のドライバーは、認知機能検査等を受けなければならないこととされている 。
認知機能検査には、「手がかり再生」「時間の見当識」の2つの検査項目があり、16種類のイラストを記憶して回答する検査と、検査時の年月日、曜日、時間を回答する検査が行われる 。
運転技能検査(2022年5月から導入)
2022年5月13日に施行された道路交通法改正により、75歳以上で一定の違反歴がある方は「運転技能検査」を受検しなければならなくなった。教習所のコースなどで実際に車を運転し、合格しなければ免許を更新できない 。
高齢者講習(70歳以上対象)
運転免許証の更新期間満了日時点で70歳以上の方は、高齢者講習を受けなければ運転免許証を更新できない 。
免許返納支援制度の実例
調査の結果、多くの自治体で免許返納者への支援制度が存在していることが確認された。
福岡県の取り組み
福岡県では、運転免許を返納等された高齢者に対して、タクシー事業者による料金割引サービス等の支援サービスが提供されている 。
全国の事例
山形市では、運転免許証を自主返納した70歳以上の方を対象に、タクシー券2万円分(1枚500円×40枚)を1回のみ交付している 。
大阪府では、免許返納した大阪府在住の65歳以上の方のタクシー運賃が10%割引となる 。
特典の仕組み
免許返納による特典は、返納の際に交付してもらうことができる運転経歴証明書が必要な場合が多く、この証明書を提示することで、地域によって様々な特典を享受することができる 。
当事者の声(※個人情報保護の観点から仮名で紹介)
高齢ドライバー問題について、関係者から聞かれる声をまとめると以下のような意見がある。
高齢ドライバー側の声
- 「車がないと買い物も病院も行けない現実がある」
- 「公共交通機関の便が悪い地域では、車が生活の必需品」
- 「長年無事故だった自信がある」
家族側の声
- 「運転に不安を感じることが増えたが、本人に伝えにくい」
- 「本人のプライドや自立心を考えると、強く言えない」
- 「返納後の生活手段について具体的な準備が必要」
制度の課題と今後の方向性
現在の制度には一定の効果があるものの、課題も残されている。
高齢者人口の増加の影響を除くために免許保有者10万人当たりの事故件数の推移をみると10年前と比べて大きく下落している が、絶対的な事故件数の減少は十分ではない。
また、支援制度についても地域差が大きく、免許返納の特典に関しては、自治体ごとに違うので、お住まいの地域でどんな特典が受けられるかを確認する必要がある 。
技術的な解決策への期待
サポカー(安全運転サポート車)とは、衝突被害軽減ブレーキやペダル踏み間違い急発進抑制装置など、交通事故を未然に防ぐ技術が搭載された車 として注目されている。
しかし、高齢者にとって新しい技術への適応には課題もあり、普及には時間がかかると予想される。
まとめ
今回の福岡市東区での事故は、高齢ドライバー問題が個人の責任を超えた社会全体の課題であることを改めて浮き彫りにした。
現状として確認されたこと:
- 日本では75歳以上のドライバーに対する認知機能検査や運転技能検査が既に実施されている
- 多くの自治体で免許返納者への具体的な支援制度が存在するが、内容には地域差がある
- 高齢ドライバーの事故率は改善傾向にあるが、高齢化の進展により全体に占める割合は増加している
今後必要な取り組み:
- 制度の更なる充実と地域格差の解消
- 家族間での早めの相談と地域の支援制度の活用
- 安全技術の普及と使いやすさの向上
高齢化社会が進む中で、この問題に完璧な解決策はない。しかし、正確な情報に基づいて官民が連携し、段階的に対策を進めていくことで、交通事故の減少と高齢者の生活の質の向上を両立させることは可能と考えられる。
被害者の方のご冥福をお祈りするとともに、同様の事故を防ぐための社会全体での取り組みが求められる。
※本記事で紹介した当事者の声は、個人情報保護の観点から仮名で紹介している。制度の詳細については、各自治体の公式情報を確認されたい。
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