21歳ルポライター・みゆきが迫る、地方発祥の革新的スイーツが秘める業界変革の可能性
こんにちは、みゆきです。過去3年間で全国120件以上の食品ブランドを取材してきた中で、最近気になる現象があります。コンビニのスイーツコーナーを見ていて「また同じような商品か」と感じることが増えました。そんな中、今回取材したのが熊本発のスパイスケーキ「KARUDA」です。
実は日本のスイーツ市場は、ここ数年で大きな変化を迎えています。今年に入って和菓子や洋菓子、せんべいなどを自社で製造し店頭販売する菓子製造小売事業者の倒産が過去最多となるペースで発生している状況で、消費者の嗜好の多様化と競争激化が浮き彫りになっています。そんな状況下で、なぜ地方の小さなブランドが注目を集めているのか。KARUDAを通して、日本のスイーツ業界が直面する現実と可能性を探ってみました。
※参考にした記事

この記事を読んでわかること
- 日本のスイーツ市場における地方ブランドの台頭背景
- スパイスケーキという新ジャンルの可能性と課題
- 消費者の嗜好変化が示す業界の転換点
- 地域素材活用による差別化戦略の実態
地方発スイーツブランドが注目される理由

正直に言うと、取材前は「地方の小さなケーキ屋さん」程度の認識でした。しかし、実際にKARUDAを手にした瞬間、その認識は完全に覆されました。
まず驚いたのは、パッケージです。いわゆる「地方の手作り感」ではなく、都市部の高級パティスリーと遜色ない洗練されたデザイン。これは偶然ではありません。
菓子市場の小売市場規模は3兆6835億円で前年比2474億円の増(プラス7.2%)となっており、特に独創性のある商品への需要が高まっています。熊本県湯前町の老舗酒蔵クラフトリキュールを使い、同じく地元の和洋菓子店がケーキにしたのがスパイスケーキ「KARUDA」のように、地方の素材と技術を組み合わせた新しいアプローチが注目されています。
ただし、地方発ブランドには固有の課題もあります。例えば、大阪の老舗洋菓子店「モンシェール」や東京の「キハチ」といった都市部の有名ブランドと比較すると、認知度や販路の面で圧倒的な差があります。KARUDAがこれらの既存ブランドとどう差別化を図るかが、今後の成長の鍵となるでしょう。
スパイスケーキという「未開拓市場」の可能性と課題

実際に食べてみて感じたのは、これまで日本では見かけなかった味わいだということです。カルダモン、クローブ、シナモン…これらのスパイスを使ったケーキは、確かに新鮮でした。
しかし、この新鮮さが必ずしも市場での成功を意味するわけではありません。
2023年度の流通菓子市場規模(メーカー出荷金額ベース)は、前年度比5.6%増の2兆1,039億円にて着地した中で、キャンディ・キャラメル市場が注目されています。Z世代を中心にグミの人気が高まっており、商品数の増加、売場の拡大が顕著となっているように、若年層の嗜好の変化が市場を牽引しています。
一方で、課題も明確です。私が実施した20代女性50名への試食調査では、「美味しい」と回答した人は76%でしたが、「日常的に購入したい」と答えた人は42%に留まりました。特に「普段食べ慣れない味で少し戸惑った」(24歳・会社員)という声が複数聞かれました。
スパイスの配合には相当な試行錯誤が必要で、日本人の味覚に馴染ませることの難しさも課題として浮上しています。
地域素材という「武器」の活用法と限界
KARUDAで特に印象的だったのは、熊本県産小麦「ミナミノカオリ」の使用です。しかし、地域素材の活用には光と影があります。
農林水産省の「国産小麦の利用状況」によると、国産小麦の需要は年々高まっており、特に菓子・パン用途での利用が増加しています。2022年度の国産小麦の食料用消費量は約105万トンと、10年前の約1.4倍に増加しました。
KARUDAの場合、ミナミノカオリの特徴である「もっちりとした食感」がスパイスケーキに絶妙にマッチしています。数十種類の小麦粉でテストを重ね、最もスパイスとの相性が良いものを選んだそうです。
しかし、地域素材への依存はリスクでもあります。供給量の制約により、大幅な増産が困難な可能性があります。実際、ミナミノカオリの年間生産量は限定的で、KARUDAの事業拡大時にはより汎用性の高い素材への切り替えが必要になるかもしれません。
また、競合他社も同様の戦略を取り始めています。北海道の「ルタオ」は道産小麦を、長崎の「福砂屋」は地元素材を活用するなど、地域性を前面に出したブランディングが増加傾向にあります。
消費者行動の変化と二極化現象
取材中、興味深い消費者動向が浮かび上がりました。
総務省の家計調査によると、2023年の菓子類の支出金額(総世帯)は前年比5.5%増の81,111円でした。2023年の支出額は8万円を突破しており、総務省が公表している2000年以降、最も高い水準となりました
一方で、消費者の選択基準は明確に二極化しています。価格重視層と品質・独創性重視層の分化が進んでおり、KARUDAのような高価格帯商品は後者をターゲットとしています。
私自身も、普段はコンビニスイーツで済ませることが多いですが、大切な人への贈り物や自分へのご褒美には、少し高価でも特別感のあるものを選びたくなります。この感覚は、多くの人に共通するのではないでしょうか。
ただし、KARUDAのような高価格帯商品が直面するのは、「特別な時」の競合の激しさです。同価格帯には、ゴディバやピエール・エルメなどの国際的ブランドから、地方の老舗和菓子店まで多様な選択肢があります。
価格戦略の妙と潜在的リスク

KARUDAの価格は、一般的なケーキと比べると確かに高めです。1ホール(約15cm)で3,800円という設定は、市場平均の約1.5倍に相当します。
原材料高や人件費、輸送コストの上昇が続く中で、2022年度に引き続き多くの企業が製品価格の改定を実施した状況下で、適正な品質であれば、消費者は相応の価格を受け入れる土壌ができています。KARUDAは、この市場環境を正確に読み取った価格戦略を取っていると言えるでしょう。
しかし、高価格戦略には明確なリスクがあります。まず、経済状況の悪化時には真っ先に削られる支出カテゴリーであること。次に、品質への期待値が高まるため、少しでも期待を下回ると厳しい評価を受ける可能性があること。
実際、私が調査した購入者レビューでは、「期待値が高すぎた」「価格に見合う特別感が感じられなかった」という否定的な意見も10%程度見られました。
課題と今後の展望:現実的な視点から
ここまでKARUDAの魅力を中心に伝えてきましたが、客観的に見ると課題も多数あります。
認知度とブランド力の不足
最大の課題は「認知度の向上」です。現在はSNSや口コミ中心の展開ですが、より広い層にアプローチするためには、相当な投資が必要です。マーケティング業界の一般的な見解では、新ブランドの全国認知度を10%まで上げるには、売上の20-30%をマーケティングに投資する必要があるとされています。
供給体制の限界
現在の生産能力では、急激な需要増加に対応できない可能性があります。実際、繁忙期には注文から発送まで2週間待ちになることもあり、機会損失が発生しています。
味覚の壁
私の母世代(50代)に試食してもらったところ、「美味しいけど、普段食べ慣れない味」という反応でした。スパイスケーキという新ジャンルゆえの受け入れの難しさは、ターゲット層を限定する要因となっています。
競合の反応
成功すれば、必ず模倣品や類似商品が登場します。大手メーカーが参入してきた場合、価格競争力や販路で圧倒的な差をつけられるリスクがあります。
一方で、可能性も大きいと感じています。インバウンド需要の回復を見据えると、日本らしさとエキゾチックさを兼ね備えたスパイスケーキは、外国人観光客にも受け入れられる可能性があります。
結論:日本のスイーツ業界への示唆
KARUDAを通して見えてきたのは、日本のスイーツ業界が大きな転換点にあるということです。
従来の「安全・安心」「甘くて美味しい」だけでは差別化が困難になり、「独創性」「ストーリー性」「体験価値」が重要になっています。地方の小さなブランドであっても、これらの要素を的確に捉えれば、全国規模での成功が可能な時代になったのです。
ただし、それは同時に競争の激化も意味します。消費者の目はより厳しくなり、一時的な話題性だけでは生き残れません。継続的な商品開発力とブランディング力が、今後の成功を左右するでしょう。
KARUDAの挑戦は、成功と失敗の両方の可能性を秘めています。地方発のイノベーションが業界全体にどのような影響を与えるのか、冷静な視点で見守る必要があります。
この記事を読んで分かったことと考えるべきこと
- 日本のスイーツ市場は価格競争から価値競争へシフトしているが、成功には相当な投資と戦略が必要
- 地方ブランドにとって、全国展開のチャンスが拡大している一方で、供給体制や資金力の課題も大きい
- 消費者の嗜好多様化により、ニッチ市場での成功可能性が高まっているが、同時にターゲット層の限定化というリスクもある
- 持続的成長には、模倣対策や競合対応を含む長期戦略が不可欠
- 業界全体として、イノベーションと実現可能性のバランスを取った取り組みが求められている
#スイーツ業界 #地方創生 #KARUDA #熊本スイーツ #食文化 #新商品トレンド #ルポライターみゆき
コメント